ひえコラム 4

贈り物


贈り物が届いた。
前日の夜更かしで遅く目覚めた午後の13時頃の出来事である。
優雅にクロワッサンとミルクティーをテーブルに並べ愛読書の格闘技通信を読み耽っていた時である、ベランダから「ゴーン」と大きい音がした。
あまりの大きい音に遂にテポドンが発射され、近所に着弾したのかと思う程だった。
臆病者の私は恐る恐るベランダを覗いた。しかし、何も変わった事は起きていない。
戸を開けベランダに降りた。私は一瞬、自分の目を疑った。
足元にTOPが落ちているではないか!
そう、CMでお馴染みの酵素パワーの洗濯用洗剤TOPである。まさかと思い、ベランダから外を見るが怪しい人影はない。仮に私に何か恨みがあり、嫌がらせだとしたら、もっと違うものが投げ込まれるであろう。死んだ魚とか、死んだネコとか・・・そして、本当に何かのお祝いならベランダから投げ込まず、間違いなく玄関から来るであろう。
わからない、事実は小説より奇なりの典型である。もしや発売元の新手の営業戦略かとも思ったが、両隣のベランダを覗いたが投げ込まれた形跡はない。
明かに私の家を狙ったようだ。しかも投げ込まれたTOPは未開封なのだ。
ますます、判らなくなってきた。
かつて、住んでいた大田区のアパートのドアノブに、これ食べてとメモの付いた弁当が下げられてた時の衝撃に似ている。
きっと、何かの間違いだろうと決め込んで再びクロワッサンにかぶりついた。
その後、1時間おきに計3度、TOPは投げ込まれた。
事態は何かの間違いではなくなった。
こうなったら、張り込みしかない。
物騒なので、護身用に十字架とにんにくをポケットに忍ばせ、恐らくここから投げ込まれたであろう現場を下見したのち、その現場が見える駐車場で張り込んだ。張り込むこと1時間、年の頃は40、50の背の低いおじさんが現場に現れた。
辺りをキョロキョロ見回したのち、紙袋からTOPを取り出し、助走をつけて投げた。「ゴーン」絶妙のコントロールである。遠投と呼んでも、遜色のない距離をボールならまだしも、TOPをこうもおもいのままに投げれるとは、こいつ相当投げ込んでるなと感心させられた。
その場で取り押さえることも出来たが、しばらく泳がせることにした。
投げおえたおじさんは、そそくさと現場を後にした。
私は尾行した。5分程歩いたところでおじさんは某新聞販売店に入った。どうやらここの従業員のようだ。若い従業員達が挨拶をしている。私は踏み込むことにした。
TOPおじさんを確認して、「私に、なにか恨みでも?」
TOPおじさんの顔から一瞬にして血の気が引いた。しかし、TOPおじさんは身に覚えがないの一辺倒であった。 話しにならないとおもい、ここの所長と話しをさせろとたてついた。
「私が所長なんですが・・・」
どうやらTOPおじさんは所長らしい。
「じゃあ、ここは所長自らいやがらせをするのか?」
TOPおじさんに詰め寄った。
「はい」簡単に自供した。
ことの経緯はこうだ。
わが家に新聞勧誘に訪問したところ、断られたらしい。そのうえ、帰り際に唾をかけられたと興奮して話してくれた。その復讐にTOPを投げ込んでるらしい。天地神明に誓って私はそのような行為は行っていない。もしやと 思い、その家は誰さん宅か訪ねた。
「吉田さん宅です」
「私は吉田ではない。吉田さんは隣の方ですけど」
「えっ」15秒の沈黙の後、「あっ、間違った」
日本広しと言えども、人違いでベランダに洗濯洗剤TOPを投げ込まれた人は私をおいて他にいないだろう。
どうしても気になるので、帰り際に、なぜ、投げ込んだものがTOPだったのかを尋ねたところ、どうやら新聞勧誘の販促アイテムとして日頃持ち歩いてた物らしい。
おじさんはお詫びのしるしに投げ込んだ洗剤は差し上げます。と言ってくれた。
あまり嬉しくない。なぜなら、わが家の洗濯洗剤はアタックだからである。



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