ひえコラム 3

無駄な戦い


男には戦わなければいけない時がある。
それが負け戦とわかっていようと、無利益な戦でも。そして、今日も私は戦った。
敵はインスタントラーメンである。
まず、フタを開け、粉末のスープ、フリーズドライの具と入れた。
すると、一見、コショウともおもえる小さい袋で【食べる直前にお入れください】という初めて目にするものがあった。
日頃、この手の物をあまり口にせず、ここ何年か遠ざかってたせいもあるが、その小ささに気づかず、危うく見落とし取り出さずに熱湯を注ぐとこであった。
この【食べる直前にお入れください】という、
一方的に指図し、お願いしてるのか命令してるのか判らぬこの言葉は、幼少期にやきそばUFOのソースを先に入れその後お湯を注いで食べていた私に対する宣戦布告である。
ひとまず、お湯を注ぎ、クッキングタイマーで5分を設定する。さて、この袋をどうしてくれようか。
まずは【食べる直前にお入れください】と書かれてる部分を黒い油性マジックで塗り潰した。
この先制の攻撃で敵からは、さっきまでの覇気は消えもはや虫の息である。私は攻撃の手を休めなかった。
敵はインスタントラーメンの調味料として生まれ、食される事が使命である。
私はその使命を全うさせず、排水溝に中身を流してやろうと考えた。
完膚無きまでに叩き潰すのが戦いの鉄則である。
ここから開けなさいと言わんばかりの矢印の位置から開封を試みた、しかし、うまく裂けない。
なんだ最後の抵抗かと思い、更に力を込めて開封を試みた。
「うぁっ」この声は敵の声ではない、私の声である。
勢いあまって開封したもんで、中身の調味料が飛び散り私の右目に入った。
あの矢印は罠だった。敵は死んだフリだった。
あろうことか、食べる直前に右目に入れてしまったではないか。
一旦、戦場を離れ、風呂場で右目を洗い、形勢を逆転された私は再び戦場に赴いた。
非情になりきれていなかった自分を反省し、まな板と、我家で一番切れ味のいい包丁を取り出した。
こいつをキャベツの如く千切りにしてやろうと決意し、まな板の上に敵をのせた。
「お前は俺を本気にさせたな」包丁を握り、さあ、いよいよというところで、無常のタイムアップである。
5分経過を知らせるタイマーの音が戦場と化したキッチンに轟いた。
「運のいい奴だ」戦い終わってノーサイド。
私はラーメンの蓋を開け、半分程飛び散った残りの調味料を右目をかばいながら入れ食べ始めた。
旨い。この調味料の香りがたまらん。
見事完食し、じっとしてはいられず、近くのスーパーに出掛けた。やつを買い置きするために。



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